伊藤穰一氏がホストを務める「THE NEW CONTEXT CONFERENCE(NCC)」を取材しました。今年のNCC(15回目)のテーマは「ITとバイオテクノロジーの融合が導く未来」と「ブロックチェーンの真価と進化」です。
一日目は、バイオとITがテーマ。機械学習(ディープラーニング)などを含むIT技術と、バイオの連携がどんどん深まっていることが分かる講演のラインナップ。
ヘルスケア系のビジネスは、技術がでてきてから動くスピード感ではなく、科学論文を読んで技術を予測して動くスピード感になっている。ただヘルスケアといっても専門の会社だけでなく、エンターテイメントなどの会社など、あらゆる会社がメディカルの情報を収集して、予防に寄与したり、治療に介入したりする可能性が広がっているのが分かる。
注目の登壇者は、ファイザー株式会社から瀬尾亨さん、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社から鈴木忍さん、ペプチドリームから岩田俊幸さんそして、Keynoteセッション「次世代型製薬会社の構築」の登壇者として、PureTech Healthのエリック・イーレンコさんだ。
特にPureTech Healthは次世代型製薬会社の形態と評されている。バイオテクノロジー分野をベースとして、異分野との組み合わせによる新たな技術の創出、サービス開発を行いながらも、自ら先進的なスタートアップを立ち上げたりしている。
「PureTech Health」
http://puretechhealth.com/
ファイザー社のAIを使った戦略
SONDE社のボイスを使った認知症の早期発見システム
生命科学・ヘルスケア分野における データ解析のプラットフォーム「Garuda」
午前中のパネルティスカッションでは、伊藤氏が「技術発展のスピードが速くなると、学際的な研究をベースにしたビジネスモデルは続かなくなるのではないか。そうなると大手の製薬会社はどう舵を切る?」とパネラー(ソニーコンピュータサイエンスの北野さんら)に質問していた。
パネラーは「資金力を活かしてまずは投資家として生き残るし、現在の薬剤などの生産能力を活かして、ビジネスモデルを変えながらも、残っていく。製薬会社の中には、デジタル分野に対して、すでに関心を大きく開いているところもあるし、IT系の会社との連携も進んでいる。」などと回答。うーん。もっと具体的に動いているはず。守秘義務などもあり、突っ込んだことは答えられないかなという印象。
伊藤氏は午後のパネルディスカッションでも、PureTech HealthのEric Elenko氏に対して似たような質問をした。「大手製薬会社はピュアテックのような会社に置き換わるのか?」作ってしまった制度を回避して、どのようにテクノロジーを素早く社会に溶け込ますのかという思いを感じる。
PureTech HealthのEric Elenko氏は「我々は大きな製薬会社と連携することもあります。開発会社は研究開発は行っても大規模な臨床治験をするのは難しい。大規模試験をするには大手製薬会社の方が優れている。今後は、研究開発、マーケティング、流通の役割分担がより明確になるのではないか。」と回答。クライアントでもある製薬会社に配慮ある発言だった。
伊藤氏とEric Elenko氏のパネルディスカッションの様子
個人的に、伊藤氏の発言で気になったのは、キッチンで実験しているスライドを見せて、「遺伝子をデザインして、プリントして、バクテリアに入れて、リブートする。それがキッチンでできるよ」のところ。これは伊藤氏の過去のブログを発見。
※キッチンカウンターでバイオハック(伊藤氏のブログから)
2日半の作業で、我々は10年前だったらノーベル賞ものだった仕事をキッチンでやってのけた。遺伝子配列を設計し、それを実際に合成し、バクテリアに導入したうえでそのバクテリアをリブートしてみせたのだ。
(https://joi.ito.com/jp/archives/2014/08/25/005555.html)
そして、これが進んだ形が、「DIYバイオ」や「STREET BIO」という概念になっていくのだろう。
「DIYバイオ」
http://biohacker.jp/
「STREET BIO」
http://www.emwbookstore.com/street-bio/
こういう感覚値が、制度関係なく、生活やビジネスを加速させていく源流になりそうだけど、どう医療制度と折り合いをつけていくのかといった点は今回のカンファレンスでは答えにまで至っていなかった。
※おまけ
もう一つ気になったのは合成生物学。合成生物学は生物学をベースに、生命を全体論的に理解しようとする学問で、主に工学との融合で生物現象を理解しようとする学問。
Synthetic biology Latest Research and Reviews
https://www.nature.com/subjects/synthetic-biology
担当:石塚
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