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執筆者の写真石塚

平成30年度厚生労働省難病患者サポート事業「第8回患者会リーダー養成研修会」に参加。


■家族制度と社会保障

フリードリヒ・エンゲルスは『家族・国家・私有財産の起源』の中で家族制度とは「財産や職業などを世襲する目的で制定されたものが多い」と指摘した。


ジョジュル・バタイユは著作の中で普遍経済学というキーワードを繰り返しだして、過剰性、余剰、贈与が人にはあると指摘した。


マズローは人間の基本的欲求を5段階に分けて、一番ベースには生理的欲求があり、次に安全性欲求、そして社会的欲求、承認欲求、自己実現、超越と段階があると説いた。


多くの生物は生理的欲求が奪われると力によって解決しようとする。力とは人間社会では殴って奪うなどからはじまり、所有や権利、そしてそれを守る国家権力などにつながっていく。


現在から未来にわたる生理的欲求、安全性欲求を満たすためには、貯蔵や貯蓄、所有や権利が必要になってくる。それは欲望や恐れや正義や倫理などが絡まって感情や表情や行動として現れる。


研修会では厚労省の方が、難病に関する制度の成立と経緯について話をしてくれた。制度の話の根本は家族制度と国という構造がはっきりとしていた。日本における家族制度は、生理的欲求、安全性欲求、そして財産や職業などを世襲に対しても機能する。それは社会秩序を形成する上でとても重要なことだ。


人は奪われるのが怖い、または未来に貰えるはずのものが、貰えなくなると思うと、それを機会損失と呼んだりして避ける行動をする。それはマズローの自己実現をかなえていく上ではとても良いことだ。まずは欠乏を埋めるために、承認されて、貯めて、個を確立して、自己実現しなければいけない。そうでなければバタイユの言うような過剰性、余剰、贈与の領域にはいけないだろう。


日本は個を確立するのは難しいこともある。「個」の前に「みんな」を意識する。それは日本語の言語の構造とも関係している。海外の友達と話をしていると、日本の「みんな」に自己実現後の超越や統合のようなものをイメージしているが、それは半分間違いで、個を実現する前の統合的な感覚質は実は、恐れや欠乏が紛れている。


都市は個を確立するためには非常に機能的な場所だ。しかし、都市の機能を担えなくなると、急に個から排除される。都市にいるあいだに、個を確立してその感覚質を会得しておくことは、人生を楽しむうえでも重要なことだ。個を確立したのであれば、近くにいる他者の個を確立すればよい。統合段階に進んだ人が増えれば、社会は必然的に合理的になる。勝手にベーシックインカムの方向に進むと思う。


これは一つの強さなので望まなければ手に入りにくい。しかし、たまに望まなくともレジリエンスな人がいて、メタ認知能力が高く、自分の執着をすぐさま認知できて、すぐさま素直な行動をできる人もいる。


患者と家族という問題については、国はそれほど調査しない。家族には介入していかないのは基本姿勢だ。責任ということがあるとすれば、当事者の声には本来は誰がレスポンスすればよいのか。当事者でない人間が、ボランティアや患者支援をするのは、どういった動機によって行動につながっていくのか。バタイユの言う贈与性というのが、太陽からの連なりによって、自然に行動にまで流れていく。そういう物語(ナラティブ)が楽しさと強さと共に現れる。今日、参加している人は、難病当事者でありながら個として強い。執着ではなく、贈与というパワーが集まっていると、なんだか起きているけど眠れる感じだ。



■患者会の三つの役割と患者会運営について

「楽しくなければ患者会ではない」というJPAさんのスローガン、その通りだと思った。楽しいは正しいに先立つ。楽しいからこそ、人は集まり、そこから何かが生まれる。そういう団体をどのように形成して継続して運営するのか。


患者会の三つの役割について、伊藤たておさんは「1、病気を正しく知る」、「2、同じ病気の患者同士、その家族同士などの助け合い」「3、療養環境の整備を目的とした社旗への働きかけ」と述べた。


日本福祉大学の児島美都子先生は、「1、病気を科学的にとらえること」、「2、病気と闘う気概をもつこと」、「3、病気を克服する条件をつくりだすこと」と述べた。


また、今回配布された資料である患者会や家族会の進め方ガイドブックには「1、多数決原理を用いない」、「2、会の目的と何を大切にするかを決めておく」、「3、役員は交代制にする」と運営のトラブルを避けるためのポイントが明記されていた。これらを言語化することで使える知識となり、活動を共にする方たちとも共有できるようになった。



■ピアサポーターの役割とは

相談者さんの話を聞くことだけでは、悩みやストレスが消失するわけではない。しかし、治療、生活、その時の感情などを丁寧に聞き、時に自分の体験を話す。体験や感情を共有する。そうすると、相談者は自ら気づき、自分で自分を助ける力が湧いてくるようになる。相談者の変わりに答えを出してはいけない。相談者が考えているときは一緒に沈黙する。時には相談者に対して質問をすることで一緒に考えを深めていく。


実際の相談時間を終えたあとも振り返りの時間をとって重要な気づきは共有する。相談者は嘆き、悲しみ、笑う。感情を素直に出して、自分を認知するように言葉にしていくことで物語になっていく。そうするうちに相談者は自尊心を取り戻していく。


人の生きる力はすごい。自分で自分を助け、力を身につけた経験、心の推移はとても感動的な体験となる。それは悲劇と喜劇が認知として生まれる瞬間でもある。これは時間軸、構造のメタ認知能力を使って存在を引っ張り出すケアなのだ。


ただ、一つ冷静に対処しなければいけないのは、行政の制度利用に関するところだ。制度は毎年のように変わる。該当要件、申請に必要な書類、上限金額、申請日など、かならず早めに該当機関に確認をしながら進めることとする。



■患者会の作り方・進め方と注意すべきところ

「がん患者会運営のプロセスに関する考察」(大松尚子さん)という論文がある。ここに患者会の運営展開のプロセスが記載されている。


論文によると、共通目的の確認 → ミッションの実現への努力 → 活動場所の確保 → インターネットの活用 → 専門医のサポートを得ていく → 会の存在意義の再確認・問いかけ → 他団体とのコミュニケーション → 会の中での役割分担の明確化 → 新たなニーズの発掘、現状維持や解散という流れになっていくという。


患者会が直面する課題としては、資金が足りない、活動時間が確保できない、代表や中心メンバーと他メンバーとの分離が起こる、患者会の中に自分たちの役割、居場所がないと感じる人たちがでてくる、後継者がいないなどだ。


プロセスや問題点は、「活動目的、資金や場所、人」の大きく三つに分類できる。内部にいるとなかなか観察できないが、一度外から俯瞰してみてみると、会の運営がどのフェーズにあるのか、自分も含めて、目的に対して、何が問題なのかわかるのではないだろうか。


伊藤たておさんの話の中では、問題が起きる人の傾向として、「私の言うとおりにしなさいタイプ」、「グループの規則に従ってくださいタイプ」、「消極的であきらめちゃうタイプ」、「あなたは間違っている、私が正しいタイプ」、「私が教えます。よく聞きなさいタイプ」が存在するという。中心メンバーは特に自覚的になることが重要だし、自己反省することで人間的に成長する機会にもなるだろう。


今回の研修で会場を提供してくださったファイザー製薬の担当の方の話しでは、患者会は小さい団体が増えているという。患者会全体からすると昔からあるのは3割くらいで、2000年以降にできた比較的新しい団体が約7割だという。人口減少の社会を背景にすると、会員を増やすのを目的とするのではなく、中心メンバーは少数精鋭で具体的な目標を達成するような形にしていたり、理事会が多様性そのもののような形になるようにして、少数意見を排除しないような雰囲気ができているところはうまく運営がいっているという。患者会はいくつもかけもちしたりすることもよくあることなので、絶対にしなければいけないという感覚は捨てた方が良さそうだ。



■「食は人をつなぐ」

今回の研修は夕食、朝食、昼食と三食を参加者の方たちとご一緒することになった。


一日目の夕食、そこで行われたのはピアサポートそのものだった。自分の人生の物語が大きく変わるような体験をしている人は言葉が深い。教科書で学んだことではない体験に基づいた言語を使う。そこには深い共感があり、私みたいな人が他にいるかーという感動的な出会い、体験になった。それは参加前には期待していなかった驚きの体験となった。


二日目の朝、夕食の時とは違う顔をしているみんながいた。朝の自分はちょっと違う。昨日学んだこと、共感したこと、寝ることで少し整理される。コーヒーを飲みながら、昨日の体験をどうやって社会に還元するのか、どうやって未来の人たちにつなげるのか、そんなことが理性的に考えられるパワーが湧いていた。朝はとくに深い話をしなくても、一緒にいるだけで分かることがあった。


そして研修後の昼食、ここでは約束が生まれる気がした。たとえ言葉では交わさなくても何かを約束して研修を終えられる気がした。




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